船舶分野の脱炭素化に向けて
2020年、日本政府は「2050年までに、温室効果ガスの排出実質ゼロ」という目標を示しました。
日本のCO2排出量のうち17.7%(2020年度)は運輸部門からであり、その大半を占める自動車については、ハイブリッド車やEV車など、動力の脱炭素化に向けた動きが目覚ましく進んでいますが、船舶についても、近年は大型船などで新たな燃料を動力とする船の開発が加速しており、自動車に続く脱炭素化の波が訪れています。
水都徳島の象徴「ひょうたん島周遊船」
徳島市は四国一の大河・吉野川をはじめ、大小134の河川が市内を流れる、全国にも類を見ない水都です。
かつて蜂須賀家正公が川に囲まれた地の利を生かして徳島城を築城し、江戸までの往来に舟運を活用するなど、地理的にも歴史的にも船が大きな役割を果たしてきました。
そんな徳島市では、中心市街地を流れる新町川と助任川に囲まれた「ひょうたん島」の周囲をめぐる「ひょうたん島周遊船」が運航されており、年間5万人以上が乗船するなど、水都徳島を象徴する地域資源として定着しています。
ひょうたん島周遊船の電動化
この「ひょうたん島周遊船」について、現在、ヤマハ発動機と連携して電動化に向けた実証実験を行っています。
実証実験に当たっては、同社が開発した電動推進ユニットとステアリングシステムなどを統合した新しい操船システム「HARMO」を周遊船に搭載し、動力源を電力へと切り替えることで脱炭素化を図ると同時に、電動船ならではの静かさなどを生かした、新たな水上の楽しみ方を提案することとしています。
今回の実証実験により、事業者にとっては新製品の市場開拓に向けたデータ収集を行うことができるとともに、本市にとってはひょうたん島周遊船を持続可能な資源として進化させていくことが可能になると期待されます。
次世代操船システム「HARMO」
HARMOには次のような特徴があります。
○モーター駆動はリムドライブ方式(※インペラ翼のリム部に搭載されたモーターによりインペラを駆動する方式)を採用。同方式は低速においても強い推進力が出せるとともに、振動が少なく、快適に操船することが可能。
○ドライブユニット下部が大きく動くステアリング機構を備え、ジョイスティック操作によって、その場回頭や横移動などが簡単に行うことができる。
○電動であることから、設置が容易で静粛性が高く、環境適性に優れる。
電動化に向けたステップ
ひょうたん島周遊船の電動化は、次のステップで進めることとしています。
ステップ1.試乗会の開催(2022)
まずは電動船を広く知ってもらい、その特性や利用方法などについて考えるため、ヤマハ発動機が保有する電動船を貸与してもらい、試乗会を行います。
乗船は無料ですが、有料コンテンツなどとの組み合わせを試みることで、これまでにはなかった水上の楽しみ方を模索します。
<試乗会第一弾>
HARMOを搭載した小型電動船「エンクハウゼン艇(ヤマハ発動機所有、乗員含む7人乗り)」を使用し、各種データを収集するための無料試乗会(両国橋北詰ボートハウス前から春日橋までの往復約1km)を2022年8月11日から19日まで開催しました。
<試乗会第二弾>
HARMOを2機搭載したひょうたん島周遊船と同じ形のポンツーン船(ヤマハ発動機所有、乗員含む10人乗り)を使用し、新しい「コト(使い方・体験)」を検証するための無料試乗会を2023年2月26日から3月11日まで開催しました。
なお、今回使用したボートには、ヤマハ発動機のプロダクトデザインを手がける「GK京都(京都市)」のプロデュースにより、徳島市オリジナルデザインが施されました。
デザインコンセプトは「TERRACE(テラス)」です。
また、第一弾の取組に加えて、第二弾では各週末に様々なイベントやツアーとコラボし、HARMOの特性を活かしたこれまでにない水上の楽しみ方を提供しました。
○ 2/26(日) とくしまマルシェの会場にて「水上JAZZコンサート」を開催
○ 3/ 5(日) ツーリズム徳島主催のまち歩きツアーにて「蜂須賀桜の観桜ツアー」を実施
○ 3/11(土) パンとコーヒーときどきビールの会場にて「水上CAFEテラス」船を運航
ステップ2.実証運航の実施(2023)
2022年度はHARMOの特性を知ってもらうため無料の試乗会を開催しましたが、2023年度はその取組をさらに前進させるため、様々な運航スタイルを検証する実証運航を、2023年8月12日(土)から11月下旬までの間、実施しています。
今回使用するボートにも「GK京都(京都市)」のプロデュースにより、徳島市オリジナルデザインが施されています。
今回のデザインコンセプトは「Promenade(プロムナード)」です。
■ 実証運航の概要はこちらから
○ 8/11(金・祝) 船体披露・関係者向け試乗会を開催
持続可能なモビリティを目指して
HARMOはガソリンエンジンのようなスピードは出ず、最高速度は約10km(ガソリンエンジンの場合は約30km)に留まります。
そのため、現在のひょうたん島を一周する使い方の代替動力として活用するのではなく、スローモビリティならではの特性を生かした新たな水上の楽しみ方を考えます。
具体的には、試乗会や実証運航の結果も踏まえながら、HARMOならではの静かさなどを生かして、船をカフェのように利用してみたり、船の上をイベント会場として利用してみたりすることが考えられます。
こうして将来的に徳島ならではの体験ができるコンテンツとして成長させていくことができれば、船に乗ることを目的として、これまで以上に多くの人々が徳島市を訪れるようになることも期待されます。
今後は、太陽光発電など再生可能エネルギーの発電装置を船着場に整備し、完全にカーボンニュートラルな運航を実現することで、「ひょうたん島周遊船」を水都徳島を象徴する持続可能なモビリティとして進化させていくことを目指します。